夢霧の先





・・・・霧が、出ていた。
白くて濃い霧。
その中をはゆっくりと歩いていた。
ふと、前方に人影を見つける。
ゆらりと動く蒼が、あの人を思わせた。

「政宗さま!」

呼ぶと、少しだけこちらを振り向いた気がしたが、辺りを包む霧でよく見えない。

「政宗さま!待ってください!」

政宗に追いつこうと必死で駆けるが、どうしてか足が重くて思うように前に進めない。
そうしている間に、政宗は霧の中へと姿を消した。

「政宗さま!」

すうーっと辺りが白くなる。
視界が真っ白になったところで、ぱち、と目が覚めた。



「・・・・・」

見上げているのは、見なれた木目の天井。
ここは、の部屋だった。

「・・・夢・・・・」

ゆっくりと体を起こす。
障子の向こうは薄らと明るい。
はあ、と吐く息が白かった。

「・・・・」

なんだか無性に政宗に会いたくなって、は布団から身を出した。
一つ羽織をして廊下に出る。
夜明けの空が、軒の上に広がっていた。
薄紫の空に、チュンチュンと鳥の声が響く。
はあ、ともう一度白い息を吐いた。

ゆっくりと冷たい廊下を裸足で、政宗の部屋に向かって歩き出す。
物音一つしない廊下を、自分の足音だけが流れていく。
きぃ、と音をたてて政宗の部屋の前で足を止める。

「・・・・・・」

寝てるかな?と思ったけれど、それよりも、この部屋に政宗が本当にいるのかどうかが気になった。
夢と同じように、どこかへ行ってしまったのではないか、と。

「・・・・政宗さま・・・」

呼びかけた声は、チュンチュンという小鳥の声にかき消された。
静かな朝に、自分の声がいやに響くように感じた。
そっと、戸に手をかけ、ちょい、と小さく開けて中を覗く。

「・・・・」

部屋の中央に敷かれた布団は、少し盛り上がっていた。
でもその影になって政宗の姿は見えない。

「・・・・・政宗さま・・・・」

もう一度小さく呼ぶ。
と、もぞもぞと布団が動いて、その向こうに政宗が顔を出した。
眼帯を付けていない、素顔の顔。
その左目は少しだけ、驚きに見開かれていた。

「どうした?」

「・・・・・・」

いた。
ちゃんと、そこにいてくれた。

ほっと息を吐く。

?」

「あ・・・・」

「何かあったか?」

「えっと・・・・」

ただ、政宗さまに会いにきただけ・・・。

そう言えば良かったのだけど、どうしてこんな時間に?と言われてしまいそうで、なかなか口が開かない。
でも、こんな朝に起こしておいて「何でもないです。」なんて言うのも失礼だ。

「あの・・・・夢を見て・・・」

「夢?」

はい、と返事をすると、口から白い息が流れた。
それに気付いて政宗が手招きをする。

「風邪ひくぞ。こっち来い。」

戸を閉めてゆっくりと政宗の横に辿り着く。
「ほら」と言いながら、政宗はの体を布団の中に引き込む。
そのまま二人で布団に入り込む。
布団の中は政宗の体温で温かかった。

「で?何の夢を見た?」

聞きながら政宗は、じっと顔を覗き込んでくる。

「えっと・・・・政宗さまが・・・・いなくなっちゃう夢・・・です・・・」

予想外の夢の内容に、政宗はきょとん、としてしまう。
ふっと笑うと、そのままくつくつと笑いだす。

「わ、笑わないでください・・・!ほんとに、いなくなっちゃってたらどうしようって・・・・心配で・・・!」

言ってもまだ笑っている政宗に、は頬を膨らませる。

「だって・・・・会いたくなっちゃったんだもん・・・」

ぽそっと言えば、そっと両手で頬を包まれる。
そのまま唇を合わせられる。

「ん・・・・」

ちゅ、ちゅっと音をたてて、唇が離され、目を開けるとすぐ前に政宗の顔があった。

「・・・・ほんと可愛いな・・・」

政宗はそう言って、の頬に口付けをひとつすると、きゅっとその体を抱きしめる。
は触れた政宗の体に擦り寄る。

「床、一緒にするか。まだ祝言挙げてないけどな。まあ・・・」

そこまで言って言葉を切る政宗を、は見上げる。

「あんたが寂しがるからってことで。」

にやりと笑う政宗に、はぷうっと怒る仕草をする。
その様子を見て、政宗はくすっと笑って「もう少し寝る」と言いながら目を閉じる。
ぎゅうっと政宗に抱きつけば、彼の男の匂いがしてきた。

今度はいい夢が見られそう。
そう思って、も目を閉じた。











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