赤い月が私を照らし出した。

今夜は嫌な予感がしたんだ。

「・・・佐助・・・・」

今日の任務は戦場で主である幸村の護衛。
いつもの仕事に違いはないが、今日はなんでか胸騒ぎがした。
しかし彼を案じて戦場に駆り出すことなど私には許されていない。

忍びとは厄介なもので・・・。
規則に主に国に・・その全てに縛られている。

それなのに、たった一つ。

本当に自身が望む物には、決して縛られてはいけないのだ。

「佐助・・・・」

忍びである自分が今出来る事は、こうして彼の名を呼んで案じるだけ。
早く朝になれ、と。
朝になればこの山の向こうから、幸村と共に帰ってくるだろうから。




陽が昇る頃、その一団は帰ってきた。
私は真っ先に彼を探す。
沢山の兵が歩く、その影を目で追う。
先頭にいるのは我らが主、幸村の姿だった。
その顔は晴れやかに勝利を味わった武将の顔をしていた。
ゆらり、と彼のすぐ横の影が動いた。

「佐助!」

小さく言って私は彼に向って駆ける。
ふっと私の姿が影に溶ければ、あっという間に佐助の元へ辿り着いた。

「っ・・!」

突然現れた私に驚いた佐助が小さく声を上げた。

「佐助!――佐助!」

ぎゅうっと彼の首元にしがみつく。

「――おっどろいたな〜・・・」

「よかった――よかった無事で!嫌な予感がして私―――」

言えば佐助はふっと笑う。

「・・・まったく・・・・・忍び、失格。」

「〜〜〜いいわよ!そんなの!」

失格だろうがなんだろうが、今は佐助が大事なの!

「・・・縛られたら終わりなんだよ俺ら忍びは。」

想いに、縛られたら・・・。
――そう、それこそ命を落としかねない。

大事に想う人が出来れば任務にも支障をきたす。
想い人がいれば、平常心ではいられなくなる。

全てに縛られる忍びが、唯一縛られてはいけないもの。

でも・・それでも私は―――

「佐助・・・」

「・・・ん?」

言いながら二人強く抱きしめ合う。


――――好きよ。


貴方にだったら、どれだけだって縛られても後悔はしないわ。






たった一つの縛るもの