さくら、桜。








さく、と足元が音をたてる。
茂った背の低い草は黄緑色をしていた。
小川の水面を、まるで夜空を埋め尽くす星のように、花びらが流れていく。
川の両脇には立派な桜が並び、風に吹かれれば淡い桃色が舞う。

ふわり、とその着物から春花の香りがすれば、政宗は穏やかに笑んだ。

「政宗さま」

呼ばれた声に振り向けば、そっと左手をとられ、そのまま彼女は左腕にすり寄って、政宗を見上げてくる。
紅をさした彼女のかわいい唇が弧を描く。

「すっごく綺麗ですね」

「ん。」

心の中で「お前がな」と言ってみる。
ふと政宗は、そんなことを思っている自分がおかしくなってクスクスと笑う。

「?なんですか?」

「いや」

そう言いながらも政宗はまだ笑ったままだ。

「・・・教えてくださいよぅ」

くいくいと袖を引っ張られる。政宗は少し尖らせた口がまたかわいい、などと思ってしまう。

全く、独眼竜がこのざまか・・・・まぁ、悪くねえが・・・
「あんたが。あんまり可愛いんで、おかしくなっちまったんだよ

「へ!?」

そのまま顔を近付けて、政宗は彼女の赤い唇に口付けを落とした。
ぽっとの頬が桃色に色づくと、今度はそこに口付けを落とす。瞼に、眼尻に、耳たぶに。

の腕がゆるゆると政宗の背に回る。
様々な所に落とされる口付けに、気持ち良さそうに目を閉じる彼女の姿は、まるで猫のようだと、政宗は思う。

そのうちには政宗の首元に顔をうずめて、すり、と鼻先を擦りつけてくる。
両腕での頭を抱え込んで、頭のてっ辺に口付けると、クスクスとくすぐったそうに彼女が笑う。

「・・・・・政宗さま・・・・」

「・・Ah?」

「・・・・なんでもないです〜。」

嬉しそうに響く声に、政宗は息を吐くように一つ笑っての体を抱きしめた。

「来年もまた・・・・連れて来てくださいね。」

「ああ。その時はもしかしたら・・・・二人じゃねえかもしれねえな。」

「・・・・なんで?」

「もう一人・・・あんたの次に大切なもんが出来てるかもしれねえだろ。」

「・・・・・?」

わかんない、という風には首をかしげる。

「Ha!わかんねえなら、教えてやるぜ。今夜ゆっくりとな。」

「?・・・・・―――!!」

意味を理解したは顔を真っ赤にして、それを隠すように政宗の胸元に顔をうずめる。

「もう・・!」

「ははははは!」


楽しそうに笑う政宗の声が木々の間に響く。

少しだけ強い春の風に、さわさわと桜が舞った。


薄桃色の花びら。・・・それは淡く、優しく。

さわさわと、さくらはそして、儚く舞う。










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