熱を与える薬





その日はなんだか体がだるかった。
疲れが出たのかもと思っているうちに、みるみる顔が赤くなり、寒気を感じ始めた。
医師の診断は、風邪。
「ちゃんと寝てろよ」という言葉を残して政宗さまは仕事場に向かって行った。

「・・・・政宗さまぁ〜・・・・」

うう〜、と恨めしそうに彼の後姿を追うも空しく、廊下の角に背中が消えていった。
仕方なくはもそもそと布団に入る。

「・・・・・」

ぼ〜っとする頭の中で「こんな時もクールなんだから・・・ひどい」と政宗に悪態をついた。

もうちょっと、こうさ〜・・・大丈夫か?とか甘い感じにねぇ・・?
「・・・・・はあ・・・・」

熱いため息が漏れる。
食事をして薬も飲んだが、現代の薬とは違って漢方の類。もう自力で治すしかないのだこの時代は。
色々と考えているうちに、いつの間にか眠りについた。








頬に感じる冷たい感触に、ゆっくりと目を開ける。
そのまま、ぼーっと天井を見つめているとすぐ横から声がかかった。

、どうだ体調は」

優しい響きを持った低い声。
大好きな声だった。

「・・・・政宗さま」

「ん?」

「・・・・・」

何も言わず頬に触れる政宗の手に擦り寄る。
ふ、と小さく笑った声が聞こえると、おでこに柔らかい感触がした。
見ると目の前に政宗の首筋があった。
政宗は唇で熱を確かめるように、のおでこを擦る。

「・・・まだ熱いな」

優しくの頬を撫でると、パッと離れて次の瞬間には冷たい手拭いをおでこに乗せてきた。

「・・・・気持ちい〜」

ふ〜っと息を吐くと喉の奥が詰まって、ごほごほと咳が出た。
その様子を見て「薬は飲んだか」と政宗が聞いてくる。

「昼間、飲みましたけど・・・・」

「その後は」

飲んでない、と微かに首を振る。

「飲めって言っただろ」

「・・・・寝てたんですよぅ〜今まで」

言うと「ああ、そうだったな」と政宗が一人ごちる。

「起きられるか?薬飲め」

言いながらの背に腕を通して上半身を起こしてくれる。
起きるとまだ頭がクラクラした。喉もだいぶ渇いているようだった。
政宗は布団の隣にあった薬を手にするとに口を開けろ、と言って薬を飲むように言った。
水を受け取り、ごくん、と薬を飲む。

「・・・・にがい・・・」

子供のように言えば政宗は「我慢しろ」と返す。
もう一口水を、と思って茶碗に口をつけたら、口の端から少し零してしまった。

「んっ・・零しちゃった・・」

言ったと同時、口から零れた水を政宗がぺろ、と舐め取る。

「ぁ・・・・」

「・・・・」

鼻がくっついてしまうほどの距離で目があった。
そのまま政宗は、の唇を自分のそれで塞ぐ。

「ふ・・・ん・・」

口内に入ってきた政宗の舌がの歯をなぞる。
ちゅっといって唇を離すと政宗は「にがくねぇな」と言う。

「甘いじゃねえか」

「ん・・・まさむ―――・・」

もう一度口付けての言葉を遮る。

「ふ・・ぅ・・・」

長い口付けのあとに政宗が小さく呟いた。

「そんな赤い顔して弱ってる姿見たら、理性なんか保てねえよ」

「・・え!?」

「Forgive me.(許せ)」

「ええ!?ちょ、ちょっとー・・!」

弱く押されての体が布団におさまった。



次の日、小十郎の説教が半刻続いた理由を、二人だけが知っていたという。