つい・・・・あまりに綺麗で、見とれてしまった。





夏の日の二人







ミンミンと蝉が鳴く季節。
真っ青な空には大きな入道雲がかかり、じりじりと地面を焼く太陽の日差しは、屋根の下に濃い影を落としていた。

「あ〜暑い〜・・・」

手に持った団扇を扇ぎながら縁側を歩いているのは、伊達家の奥方、だった。

言わずもがな。この時代にはクーラーがない。
正直、文明の進んだ世界で暮らしていた女子高生には、かなり辛いことだった。

「あ〜〜!アイス食べたいー!クーラー欲しい!日焼け止めクリーム欲しいぃ〜!」

この時代の人が知らない単語を並べて駄々をこねる。
・・・・ちょっとしたストレス発散。

「も〜政宗さま、どこ行ったの〜?せっかく、扇いでもらおうと思ったのに〜!」


――数日前のことである。

あまりにが「暑い暑い、死ぬ〜!」と騒ぐので、なんと奥州筆頭自らが扇風機がわりを務めてくれたのである。
パタパタとに団扇で風を送る政宗を見て、「あり得ない・・・。まさか、あの政宗様が・・・!」と驚いていたのは小十郎であった。
しかもその後は、ゴロゴロと政宗に甘えて膝枕までしてもらったのだ。
まあ・・・・そのお礼はちゃんと日が沈んでから返したのだが、・・・それはまた別のお話。

とにかくそれに味をしめたは、こうしてまた政宗を探しているというわけだった。

「政宗さま〜」

きょろきょろと見渡しながら縁側を歩いていると、庭にその姿を見つけた。

「あ!いた!」

声をかけようとしただが、息を吸い込んだところで動きが止まってしまった。

その視線の先―――
銀の鋼を振り下ろし、鋭い音をさせて刀を振るう政宗の姿。

空(くう)を切る真剣に、夏の日差しが反射する。
パッと散るのは彼の汗。
一人鍛練をする、政宗の姿だった。

「――――っ」

上半身を裸に、政宗が動くたび、背中や腕の筋肉が躍動する。
じりじりと日差しに焼かれ、本来白いはずの政宗の肌が褐色に輝いていた。

その姿が、あまりに綺麗では目が離せなくなってしまった。

「かっ・・・・・・」
かっこいい・・・!

こんなに純粋に“かっこいい”と思ったのは初めてだった。
いつまでも見ていたくなる姿。
いつの間にか暑さも忘れ、はそこに、ぼーっと立ち尽くしていた。
すると、ふいに政宗が動くのをやめて、こちらに視線を送ってきた。

。どうした?」

「へ!?」

声をかけられてハッと我に返る。

「まぁた暑くて死んじまうのか?」

くつくつと笑いながら、こちらに歩いて来る政宗。
「だって暑いんだもん」と言いながらがそっと縁側に座ると、傍まで来た政宗もそこに腰を下ろして、持っていた手拭いで汗をぬぐった。

「ったく、城主様に扇がせるなんて、お前くらいだぜ、。」

は「え〜!?」と抗議の声を上げながら政宗を扇いであげる。
その風がさわさわと政宗の前髪を揺らすと、彼は気持ち良さそうに目を細めた。

「政宗さま、こんな暑いのに外で鍛錬なんかしてたら、体調崩しちゃいますよ?」

「Do not say a stupid thing.(馬鹿言うな)そんなやわじゃねえよ。」

「ふふ、そうでしたね。」

答えながらは政宗の持っていた手拭いを取る。

「背中拭いてあげます。」

「ああ。・・・ん。」

政宗は手拭いと引き換えに、の団扇を取って自分でパタパタと扇ぎ始める。

つ、と背中を流れる汗を、そっと拭き取ってあげる。
少しだけ焼けた肌がすごく色っぽかった。
ドキドキと鼓動が強くなるのがわかる。

「政宗さま・・・」

「Ah?」

心の奥がそわそわして、なんだか無性に抱き付きたくなってくる。

「政宗さま、すっごく、かっこいいです。」

ふと前を向いていた政宗が振り向く。
そしてその顔がにやりと笑った。

「I know.あんたが見惚れるくらいにな。」

「えっ・・・!?」
気付いてた!?

ふいに政宗がの頬に手をのせる。

「なら、あんたは知ってるか?」

「?なんですか?」

にやっともう一度笑って政宗が顔を近付けてきた。
の耳元に口を寄せると、かすれた声で

「暑い暑いって言って、頬を火照らせてるあんたが、すっげえ色っぽいってこと。」

「!!?なっ!」

かーーっとの頬が一気に赤くなる。

「また扇いでやろうか?膝枕でな。」

「え!?や、あの!」

そのままぐいっと手を引かれ、膝枕される。
・・・・そよそよと心地よい風が頬にあたる。
見上げれば何も身に付けていない政宗の姿。

「―――」

「なんだ?前みたいに甘えていいんだぜ?」

「いや、あの・・・」

前の時とは違う。
だって、政宗は上半身に何も身に付けていないのだから。

「ちゃんと、礼はもらうからな、

優しく言って、政宗はニヤリと笑った。










戻る