「きゃあっ三成さん!」

大雨の中、帰宅した三成の姿に驚いたは声をあげた。

「びしょ濡れじゃないですか!は、早く拭かないと!」

「いい。」

「良くないです!はい、これ」

「しつこいぞ!」

三成は腕にかかるの手を振り払う。

「・・・」


が戦国というこの時代に来て、はや数か月。
石田三成という人物の性格は徐々にわかってきてはいたが、・・・・さすがに、この言い方は少し頭にきた。

「――じゃあ好きにしてください。風邪ひいても知らないですからね!」

強く言っては、くるりと向きを変えるとそのまま廊下を歩き出す。
すたすたと歩き去っていくの、その手を三成がぐっと掴んだ。

「怒るな!・・・その・・・強く、言いすぎた・・・・。」

「・・・・・」

振り向くと、の左手を掴んだままの三成が俯いていた。
その顔がなんだか子犬のように可愛く見えて、は「しょうがないなあ」と息をはく。

「どこ、行ってたんですか?こんな雨の中・・・・」

「・・・・城下に下りていたら、急に雨が降り出したんだ・・。」

「城下・・・・?」
見廻りにでも行ってたのかな・・?
「とりあえず体拭きましょう?手・・すごく冷たくなってます」

言って、三成の手を包んであげれば、じわり、と温もりが移っていくように感じた。

「・・・・・」

三成はもう片方の手で、の手をさらに掴む。

「・・・・・?」

両手を繋いでいる状態だ。

「・・え・・・なんですか?」

「これを・・・」

小さく言うと、の手に何かをのせる。

「城下の店で見つけた。」

見ると手の上には小さな白い貝殻。
表面には綺麗な桜の絵が描かれている。

「これは・・・?」

「・・・・・・」

きょろ、と恥ずかしそうに三成は目をそらすと、掠れた小さな声で「紅だ」と答えた。

「紅?」

何のことかよくわからずが首をかしげると、三成は自身の小指をの唇に沿わせた。

「こう、だ。」

使い方を教えるように、その指は唇をなぞる。

「っ・・・・」

顔に影ができるほど、息がかかってしまうほど、近くに三成の顔にあった。

「・・・・」

真っ赤になっているに気付いた三成は、ぱっ、と体を離す。

「と、とにかく。せっかく買ってきてやったんだ。ちゃんと使え。」

言って三成はくるりときびすを返す。
その瞬間に髪から滴がぽた、とたれた。

「・・・・」

さっきの無愛想はきっと、これを渡すのが恥ずかしかったからかもしれない。
そう思うと三成の後ろ姿がすごく可愛く見えた。
はドタドタと歩いていく三成を追いかけると、持っていた大きな手拭いで体を包むように背中から抱きついた。

「っな、なんだいきなり!」

「ふふっ、ありがとうございます三成さん」

「っ―――」

「とっても嬉しいです。毎日使いますね」

笑って言えば三成の顔が赤く染まった。

「れ、礼を言うのにわざわざだ、抱きつくな」

恥ずかしそうにそう言う三成の顔を見上げれば。

その表情は言葉とは逆に、優しく笑っていた。







あげたいのは君だけ。 その理由を君は知らない。