不思議な事に。

一度耳を塞ぐと、これがなかなか放せなくなってしまう。

耳がくぐもった音に慣れてしまうからだろうか。
手を放せば轟く雷鳴にビクッと肩を揺らすことになるのだ。




真夏の夜の怖いもの・政宗編






ドカン!と響いた音には「ひっ」と声を上げた。
運悪く、ちょうど耳から手を放した瞬間だった。

激しい雷音にバケツの水をこぼしたような大雨。普段静かな奥州には不似合いな騒音だった。
不気味な暗雲に稲妻が走り、部屋から庭を見やると、激しく叩き付ける雨に夜の闇が一層深く感じられた。
ピカッと一瞬辺りが照らされると、遅れて爆音が響く。

「ぅわぁっ!もう!」

耐えきれなくて再び両手で耳を塞ぐ。
そろそろ寝ようかと布団を敷き始めたら、急にこんな天気になってしまった。
ゆらゆらと揺れる蝋燭が頼りない事この上なしだ。

「・・・・もーー!早くどっか行って〜!」

ぎゅっと身を縮めて耐えていると、遠くから「ー」と声が聞こえた。耳を塞いでいるため遠くに聞こえるらしかった。
耳を塞いだまま廊下へと出ると、その先に、きょとんとした表情を浮かべ着流しに袖を通した政宗が歩いてきていた。

「・・・What are you doing?」

近くまで来て足を止めると政宗は怪訝な表情での顔をのぞいてくる。

「・・・・・」
あ・・・政宗さまのこんな表情珍しい・・・・・

可愛いかも、などと思いながら自分の行動の理由を話す。

「雷が・・音が大きいから・・・・」

正直、小学生じゃあるまいし、怖いなんて言いたくなかった。

「う、うるさくて・・・・ね、眠れない・・です・・・」

言いながら、ついフイと目をそらしてしまう。

「・・・・・・Ah-ha。」

やばっバレた!

の顔が小さく引きつる。なるべく顔には出さないようにしているつもりだが、・・・おそらく政宗の前では意味がない努力。
にやりと口角をあげた政宗は「座れ」とを促して部屋の中に入る。
薄暗い部屋の中、耳を塞いだまま静かに正座したとは対照的に、彼女の正面に政宗がドカッとあぐらをかく。

、大事な話がある。」

「え?なに、大事な話?」

塞いだ耳の外から聞こえる小さな声に、少しが身を乗り出す。

「・・・・・」

どんな深刻な話かと思って身を乗り出したものの、政宗はにやにやと笑っている。

「?なん・・ですか・・・?」

「    」

「・・?え?」

「    」

聞き取れない・・・。

ゴロゴロと雷が呻き、いつまた爆音が響くかわからない。どきどきしながらもは仕方なく、そうっと両手を耳から放す。
途端、ぐっと強い力で引っ張られた。「わっ」と声をあげている間に政宗の胸の中におさまった。
くっと横を向かされて、右耳を政宗の手に抑えられる。左耳は彼の胸にぴったりとくっつく。
・・・・小さく、雷鳴が聞こえた。

「・・・・・・」

行き場のない両手をそっと政宗の腰辺りに回す。

「Are you all right?っつったんだよ。」

くつくつと喉奥で笑って、政宗がからかうように言うと、低い声が体をつたってに振動する。

あ・・・・・安心するかも・・・

は「大丈夫」という意味を込めて、コクンと頷く。
ちゅっと前髪に柔らかい感触がしたので目線だけ上にあげると、政宗が優しく笑んでいた。

「どうせ怖がってるだろうと思ってな。・・・来て正解だったな、honey?」

「・・・・」

ふいに政宗の意図に気付いて嬉しくなる。にこっと笑っては目を閉じた。

「・・・・・雷が来たら、またこうしてください政宗さま。」

子供みたいな事を言えば、頭上で政宗が笑った。

「All right.」

遠くで、小さく雷がなっていた。











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