始まりの瞬間





米沢城、城門前。


小十郎は、佐助と共にもう長いこと、ここに立っていた。
なぜ、こんな所に立っているかというと・・・・


「Hey、!いい加減にしろ!さっさと乗れって!」

「・・・い、い、嫌です・・・!」

「なん――・・・!わがまま言うな!嫌、じゃねえ!さっさと乗れ!!Ride on!!」


「「・・・・・・・・」」

馬に乗るの乗らないので、ぎゃあぎゃあと言い合う二人を、ずっと待っているわけである。


「いいか、!お前が甲斐へ行きたいって言ったんだぞ!馬に乗らなきゃ甲斐になんか行けるわけねえだろ!」

「だ、だって!」

顔を赤く染めて、が抗議の声を上げる。
政宗は顔をしかめたまま、「Ah?」と返す。

「・・・・だって、なんだ。」

「だって・・・う、馬に乗るって事は・・・ですね・・・・」

「・・・・・」

俯いて黙り込むに、他の三人はただ次の言葉を待つ。

「す、すごく・・・くっつくわけで・・・・・」

「・・・・は?」

間抜けな声を上げたのは政宗。

「か、体が・・・・」

そう言うとは真っ赤になって、さらに俯く。

「・・・・・」

その姿を見て、一瞬可愛いと思ってしまった事は、政宗の秘密。
それを隠すように、チッと一つ舌打ちをする。

「前に乗った時だって、そうだっただろうが。何をいまさら。」

「ま、前って・・・・」
それは、助けてもらった時だったから・・・・・意識してなかったし・・・・


最初に会った時は、“ただ怖いだけの有名人”だった彼。
しかし時を重ねていくうち、“伊達政宗”が思っていた以上に“いい男”だという事を知った。
男気はあるし、強いし、頼りになる。

先日、この広い城の中で迷子になってしまった時も、政宗自ら、探しに来てくれた。
その姿が目に入った瞬間、どれ程安心したか。

それからというもの、はほんの少し、政宗を意識するようになってしまったのだ。


「ちょっと旦那ぁ〜。早くしてくんない?これじゃいつまで経ったって出発できないよ〜。」

両腕を頭の後ろで組んで、佐助が抗議の声を上げる。

「うるせえよ猿!」

「猿って!ひっどーー!俺様、傷つく〜!」

「〜〜ったく、どいつもこいつも!」

そう言いながら政宗はひょい、と馬に跨るとそのまま馬の腹を蹴る。
ポクポク、と歩き出す馬。

「え、ちょ、ちょっと!政宗さま!?」

「そんなに嫌なら走ってきな!Hey、猿!さっさと道案内しろ!」

「猿じゃなくて猿飛だってば!」

パカパカと政宗を乗せて、馬が走っていく。
その後をが追う。
その二人の姿に小十郎は「いってらっしゃいませ。」と頭を下げた。

「やだ、政宗さま!ひどいです!」

「ひでえのはどっちだ!いつまで待たせりゃ気が済むんだ!」

「待ってください!乗るから!ちゃんと乗りますから!」

「・・・絶対だな?」

「はい、乗ります!」

「今度、嫌だっつったら次ねえからな。」

「はい!」

途端、カツッと馬の足が止まって、ぐいっと強い力で引っ張られた。

「うわわっ!」

そのまま、の体がボスッと政宗の前におさまる。
体の両側を、政宗の腕に囲まれた体勢。

「―――――」

不覚にも、触れた政宗の体温に、ドキッとしてしまった。

「Ok!猿、道案内任せた。」

「・・・・もう、いいよ、なんでも。」

しゅっと木から木へ、佐助の影が飛んだ。


こうして、と政宗は甲斐へと向かったのである。











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