だって本当に久しぶりだから。
少しでもいいから傍にいたいんだよ。





空気であなたを感じるんです






開け放った障子のむこう、中庭からのさわやかな風が春を連れてくる。
外廊下の木目を、風に乗って流れついた花びらが淡い桃色に染めていた。

柔らかく差し込んだ日の光の中、は上田城の一室にいた。
部屋の隅で体育座りをして、一心に見つめる。
長く長く待っていた瞬間だから、どれだけだってこのままでいられる。
はもう半刻、ずっとここにいた。

その視線の先にいるのは、真田軍忍び隊の長、猿飛佐助である。

「・・・・・・・・」
かっこいいなあ〜・・・・

もう何度、このセリフを心の中で呟いた事か・・・。
ほう、と溜息を吐いて、は頬を染める。

佐助の真剣な横顔。
滑らかな筆の動きに、骨ばった長い指。

それらをじぃ〜っと見つめて、心を埋める。
離れていた分の寂しさを。
触れてなくても、傍にいるだけで、同じ空間にいるだけで、ほんわか温かい気持ちになる。

「・・・・・あの〜・・・ちゃん?」

ふいに、佐助が気まずそうに声をかけてきた。

「なんですか?佐助さん」

「いや・・・何って・・・・・いつまでそうしてるのかなぁって・・・・」

コトッと手に持っていた筆を置くと、佐助は座った体勢のままの方を振り返った。

やっと、こっちを見てくれた。

はニコッと笑って、しかしすぐに真面目な顔をして

「お邪魔でしたか?もし、邪魔だったら言ってください。すぐに外に出ますから。」

静かに、部屋の隅に控えていたのだが、仕事中の佐助には邪魔だったのかもしれない。
は抱えていた膝を崩して、立ち上がろうとする。

「いや、邪魔とかそうゆうんじゃないんだけどさ。・・・・退屈じゃない?俺様、もう少しでこの報告書、書き終えるから外で花見でもして待ってた方が・・・」

「・・・あ、じゃあ、退屈じゃなければ、居てもいいですか?」

「へ?あ、それはいいけど・・・・」

「じゃあ、ここに居させてください」

言っては、ニコッと笑う。

佐助が任務から帰ってきたのは今朝早くだった。
それは仕事に出てから、実にひと月後のことで、その間、は佐助に会いたくてしょうがなかった。
がここ、上田城に世話になり始めてから、佐助が長期、城を開けるのは今回が初めてだったのである。

そんなわけで、いざ佐助がいなくなると、はすごく寂しく感じたのだ。

「・・・ぷっ!あははははは!」

「?佐助さん?」

「なーんか・・・くくく!昔の旦那を思い出すなあ〜!その懐っこい感じとか!寂しい〜、って顔とか!ぷくくくく」

「え?幸村さん・・・ですか?」

急に出てきた幸村の名前に首をかしげて聞くと、佐助は「うん」と言って、次の瞬間にはの目の前に座していた。
「わっ!」と声をあげると同時、佐助の広い胸に引き寄せられた。

「あはは、わかったわかった!傍にいるよ、しばらくはね。」

いい子いい子、と頭を撫でられては「はい!」と返事をする。
すり、と頬を胸にすり寄せて、きゅっと佐助に抱き付いた。

「まったく、可愛いなあ〜ちゃんは。」

ぎゅうっと抱きしめ返される。

やっぱり、見てるだけより、こうして抱きしめてもらいたいな
「佐助さん」

「ん?」

遠く離れて、ようやく自分で自分の気持ちを認められた。

「・・・大好きです!」

いつか本当に別れる時が来るまで、傍に居させてくださいね。











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