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「――できた・・・!」

バサッと広げたのは、大きな着物の形をした藍色。
政宗の為に作り上げた着物だった。

「初めてというのに、とてもお上手ですよ那智様」

那智に指南した年配の女中が声をかけると、那智は「えへへ」と照れ笑いをした。


奥州米沢城。
すでに桜も落ち、季節が春から夏へと移り始めた頃のお話。





蒼に溶ける







爽やかな水色に雲が一つ浮かんでいた。
視線を下げて眺めれば田園風景に鳥の影、童謡に出てくるような長閑な景色だった。

さっそく完成した着物を政宗に見せようと、那智は廊下へと出る。
きょろきょろと政宗を探しながら歩いていると、すれ違う女中や武士たちが声をかけてきた。

「なにかあったんですか?」

「嬉しそうにしちゃって」

「政宗さまを探してるんです」そう言えば皆、笑顔で「仕事部屋の方ですよ。」と教えてくれた。
言われた通りに仕事部屋へ向かっていると、廊下の先に人影が見えた。
こちらに斜めに背を向け、手にした手紙らしきものを読んでいる。
その横顔は伊達政宗、その人のものだった。

那智はニコ、と微笑むと静かな足取りで政宗の背後に近づく。
政宗の左目がチラとこちらを見て、口元に笑みを浮かべると視線をまた手紙へと向けた。
背後から彼のウェストあたりに腕をまわすと、那智は後ろからゆっくりと抱きついた。

「あー無視しましたね今~」

背中に顎をくっつけて抗議する。

「I cannot do it.(するわけねぇだろ)。俺の妻は可愛いな、と思っただけだ。」

政宗は茶化すように言って肩越しに顔を向ける。

「何読んでたんですか?手紙?」

聞けば政宗は「ああ」と答える。
・・・・少しの沈黙・・。

「・・・あの、政宗さま。私、政宗さまに」――見せたいものが――

言いかけたところで声がかかった。

「政宗様、先の件ですが」

廊下を歩いてきたのは小十郎だった。

那智。どうした?政宗様に用でもあるのか?」

そう言う小十郎の顔は、いつも見る穏やかなそれではなく、仕事の表情をしていた。

・・・忙しいのかな?

「なんでもない」と首をふれば本当に忙しいのか、二人はすぐに那智にはわからない仕事の話をし始めた。

「Sorry、那智。後でな」

申し訳なさそうに政宗が那智に謝る。
いいの、と笑って返すと、二人はすぐに仕事部屋へと入っていった。
那智も、着物のことはまた後にしようと考えて自室に戻ることにした。








夕方。
結局政宗はあれから一度も仕事部屋から出てこなかった。
夕焼けに染まる薄暗い部屋に一人、那智は畳みに両膝をたてて寝転がっていた。

「政宗さまぁ~」

子供のように名前を呼んでみる。

あー早く政宗さまの喜ぶ顔が見たいのに~!

そのまま畳みの上をゴロゴロと転がる。と、ザワザワと人の話し声が聞こえてきた。

「?」

広間の方からだった。
なんだろうと思い、広間へ向かうと、そこにはたくさんの屈強な男たち。
その中に可愛らしい女の子が一人。

「オラはいつき!先日は成実殿にお世話になっただよ!そのお礼をしに来ただ!」




第二話