ある日のこと。
は自室で一人、本を読みふけっていた。
とはいえ、この時代の文字など、あまりに達筆すぎて、ほとんど読めない。
しかし元の世界で書道の仮名文字をやっていたには、興味があるものだった。
読めない中にも、所々読める文字がある。

記憶を頼りに文字をたどっていた。



抱っこ・幸村編





殿」

障子の向こう、廊下の方から声がかかる。
声の主はここ、上田の城主、真田幸村である。

殿、入ってもいいでござろうか」

本に夢中になっていたは、二度目の声にやっと気付き「いいよ」と返事をする。

「失礼いたす。殿、もしお暇ならば、某と散歩にでも行きませぬか?・・・・・」

そこまで言って、が真剣な表情を浮かべているのに気付く。

「?」

「あ、ごめんね幸村さん。今、私、本に夢中で・・・・」

「本・・・書物ですか。殿が書物を読んでいるのを初めて見ました。」

「いや、ほとんど読めないんだけどね・・・・」

えへへ、と照れくさそうに笑う
その愛らしさに幸村は頬を染める。

「な、なれば!読めぬ文字は某が教えるでござる!」

「え?あ、ほんと?ありがとー!じゃあさっそく、これ教えて」

は言いながら胡座をかいて座る幸村に近寄る。
幸村のすぐ横に落ち着くと、「これ」と言って、幸村が見やすいように彼の膝に本を乗せる。

「・・・・・・」

「?幸村さん?」

本を見たまま何も答えない幸村を不思議に思い、は幸村の顔を見上げる。

殿」

「ん?」

「この体勢では殿が見にくいでござろう?」

「え・・・・はあ、まあ・・・」
本のことかな?

そう答えた瞬間、幸村はニコッと笑うと、の体をひょいと持ち上げる。

「わっ!幸村さん?!」

あれよあれよという間には幸村の膝の上にいた。
胡座をかいた幸村の上に横向に座らされている状態である。

「へ!?ゆ、幸村さん?この体勢は――なに!?」

「こうすれば本も殿も一緒に見れるでござる故、失礼いたした。」

そう言ってニコッと笑う。
本日、二回目。

「〜〜〜」
ひえ〜!この顔に弱いんだ〜!

「では、」

こほん、と嬉しそうに笑う幸村。

「読めぬ字を教えてくだされ、殿。」