赤い痕をなでる熱










ピシッと亀裂が入る。
冬の時期はハンドクリームがないと辛い。

「・・・いった〜・・・・」

奥州、米沢城。はその自室にいた。
朝、着替えているとチクリとした指の痛みがあった。
見ると右の人差し指から、薄く血が出ていて、指先は乾燥して皮膚が少し硬くなっていた。

「あぁ〜・・・・・こっちにきてから水仕事、手伝ってるからなぁ・・・・」

よく見ると他の指も、今にも切れそうに硬く赤くなり、手の甲にも無数に赤い線が走っている。
こうなると、もうどうしようもない。切れるのを待つか・・・ハンドクリームを塗るかしかないのだ。

「でもクリーム、ないし・・・・・・・」
こんな所で戦国時代の不便さを感じるとは思ってなかったなぁ・・・

・・・とりあえず、ペロ、と一舐め。
じくり、と痛みが走ったが放っておくことにした。

「・・・どうしようもないしね・・・・よし。洗濯物洗ってこようかな」

そう独り言を言って自室から出る。洗濯は、数少ないの仕事のひとつだった。







その日、政宗はいつもより一刻ほど遅く自室から出てきた。
昨夜は溜まった仕事の片付けに、小十郎と二人で躍起になっていたのだ。
その甲斐あって無事仕事を終わらせた政宗は、こうしてのんびりと起きてきたのだった。

「ふわぁ〜あ・・・あ〜ねみぃ・・小十郎の奴、あんな時間まで仕事させやがって・・・・」

ふわあ〜、ともう一つあくびをして前に視線を向けると、廊下の先にの姿を見つけた。
両手には沢山の洗濯物を抱えて庭へ下りようとしている。
しかし、抱えた洗濯物で足元が見えないらしく、ウロウロと宙に足をぶらつかせて履物を探していた。

「なにやってんだ、あいつは」

まったく未来人とは変わった奴が多いのか、と政宗は思っていた。
性格もさることながら、その見た目が政宗の知っている者とはかけ離れていたのだ。

・・・・あの年の女子で川でろくに洗濯もした事がない、らしい。それを表すかのように彼女の肌は滑らかで、とても綺麗だった。
「本当はどこぞの姫なんじゃねえか?」と冗談交じりに小十郎と話をしたのは、ほんの数日前の事だ。
とりあえず、彼女は彼女なりに自分の仕事を見つけて、慣れていないにもかかわらず一生懸命になっているのは、政宗も知っている事だった。

「・・・・・」
ま、見てるこっちは面白ぇから、かまわねえけどな。

と、政宗が色々と考えている間も、ずっとは履物を探していた。
・・・そのうちに洗濯物がひらりと落ちる。
「わっ」と声を上げながら、落ちた洗濯物を拾おうとすれば、また別のが落ちる。

「とわぁ!」

「・・・・・・・」
クッ・・奇声上げたな、今・・・おもしれえ〜

ぼたぼたと沢山の洗濯物を落としたところで、いよいよ我慢できなくなった政宗は声をかけた。

「Hey!なぁに遊んでんだ?

「!ま、政宗さま!」

「なんだ?新しい遊びか?」

くつくつと笑いながら政宗が近寄ると、恥ずかしさからかは頬を染める。

「あ!遊んでなんかないですよ!お仕事中です!」

「Ah-ha」

にやにやと笑みを浮かべ政宗は落ちた洗濯物に視線を向ける。

「こ、これは――!今、拾おうとして・・!」

言ってる間にもヒラリと洗濯物が落ちる。

「あっ・・」

は膝をついて、落ちたそれを拾うと手を伸ばす。
ウロウロと洗濯物を探して彷徨う手。

「・・・・・・」

その手を、――――政宗が取る。

「わっ・・!――――な、なんですか?」

「・・・・・・・・」

ぎゅっと手の甲を握られると、・・・じくり、と痛みが走った。

「いっ――・・・ちょ、痛いですってば、政宗さま」

「・・・・手が荒れてんじゃねえか。」

少し不機嫌そうな声。

「え?・・・そりゃ、もう冬ですし・・・・乾燥してるから」

「・・・ちょっと来い」

そう言って政宗はの手を握ったまま、廊下を歩き出す。

「え?ちょっとっ洗濯物は?」

引きずられるようには政宗の後を歩いていった。







連れてこられたのは政宗の自室だった。
手を繋いだまま相向かいに座らされて、持っていた洗濯物もすべて取り上げられる。

「・・・・・・あの・・・」

「Ah?」

「なんで・・」
こんなことに・・・?

政宗はそれには答えず、机の横にあった棚からなにやら取りだす。

「・・・・なんですか?それ」

出てきたのは、白い小さな入れ物。
政宗は蓋を開け中の白い油を手に取ると、の手の甲にねっとりと塗る。
そのまま両手での右手を包み込み、油を手全体に塗っていく。

「手が荒れてんなら、もっと早く言え。」

「・・・はあ。・・・・」

「・・ったく、女のくせに気にしねえな、あんた。」

しょうがねえな、と言いながら政宗はくつくつと笑う。

「・・・・・」

指と指の間に、政宗の指か絡まる。
のそれより、ずっとごつくて太い指が、丁寧に油を塗っていく。小指の先まで、丁寧に・・・。

「――――」

ドキン、と心臓が跳ねた。頬に熱が上っていく。

「次、左だ。」

「ぇ・・ああの・・・も、自分で――」

政宗は、が答える間もなく彼女の左手を取ると、右手と同じように丁寧に油を塗っていく。

「っ―――」

「・・・水仕事はしばらく他に奴に頼め。ま、これじゃ痛くてできねえだろうけどな」

「あ・・だ、大丈夫ですよ、このくらい。私、冬になるとすごい乾燥する体質だから慣れてますし・・・」

早口でまくし立てるように言うと、それと比例するかのように、バクバクと心拍が上がっていく。

「駄目だ、仕事はしなくていい。」

「――――・・でも・・・・・」
私の仕事・・・・なくなっちゃう・・

「・・・・・・」

政宗はの手を握ったまま、小さく・・・

「もったいねえじゃねえか」

「・・・・え?」

小さく・・・そう聞こえた。

「え、なに?政宗さま・・・」

「Nothing.・・・この薬やるから、さっさと治せ。」

そう言って政宗は薬の入れ物をに渡す。

「あ・・ありがとう・・ございます」

「You're welcome.・・風呂上がったらまた塗ってやるから、それ持って俺の部屋に来いよ、。」

「え!!?ちょ、でも―――」

「異議はなしだ。・・・you,see?」

言いながら政宗はニッと笑って。

優しくの指の先をなぞると、もう一度指を絡めた。











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